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2枚のCD録音のことなど(2017年3月)

 気がついてみればオトテールのCD以来、7年間も新しい室内楽のCDを作っていませんでした。それがなんと、今年は立て続けに2つも新録音がリリースされます。でもこの7年間、けっして怠けていたわけではありません。

 

 まずは2016年5月にリリースされたルネサンス・フルートのアンサンブル「ソフィオ・アルモニコ」の初アルバム「魅惑のルネサンス・フルート~優しい眼差し~」です。

 このグループを立ち上げたのは2008年。ちょうどオトテールの録音を終えた頃のことです。グループ立ち上げ、そして録音に至る詳しい経緯については是非CD解説の方をご覧いただきたいのですが、とにかく苦難の連続でした。ルネサンス音楽が大好きで、何ができるか分からないけど、とにかく何かをフルートでやってみたいと始めては見たものの、何せルネサンスについては全員ずぶの素人。右も左も全く分からず暗中模索の時期が長く続きました。

 世界的に見ても、ルネサンス・フルート・コンソートという分野はまだ始まったばかりで、やっている人も録音もまだほとんどありませんが、当時の文献や絵画を見ると、フルートは16世紀にはかなり人気の高い楽器だったということが分かっています。まずはルネサンスの音楽理論や音楽習慣を学ぶところから始まり、あとは体当たりで、片っ端からいろいろ吹いていってみると、次第にルネサンス・フルートに何ができて、何ができないのかが見えるようになってきました。

 バロック音楽に関しては、有田正広先生をはじめとする先人たちがすでにその作業を終えて下さっていたため、私たち、第2、第3世代の古楽奏者はずいぶん楽をさせてもらいましたが、ルネサンス・フルートはそうはいきません。自分たちで一から調べ、考え、学ぶには膨大な時間がかかりましが、だからこそより血となり肉となった手ごたえを感じている気がします。

 ルネサンス・フルートはメイプルなどの非常に軽い素材で作られており、楽器自体にはパワーが全くありません。でも、残響の多い部屋で演奏すると部屋が増幅器の役割を果たし、体中が温かくやさしい響きで包まれるような不思議な感覚にとらわれます。

 フルート・コンソートの醍醐味はなんといても調和の世界です。主旋律と伴奏が明確な調性音楽と違い、対位法で書かれたルネサンス音楽に主旋律はなく、絶えず変わり続けるお互いの関係性があるだけです。お互いが独立し、一見てんでばらばらに好き勝手なことを言っているように聞こえつつも実は絶妙なバランスで影響しあっており、最終的には一つの調和を作り上げます。自分の意志で生きていると思っていても、人は人間関係の中で助け合い影響し合いながら生きているのであり、それが神の作った調和の世界、もしくは宇宙の摂理なのかもしれないという実感を、コンソートを演奏していると感じます。

 2015年9月に録音を行った北海道の北の大地美術館は、木造ですがヨーロッパの教会のような響きのする素晴らしい建物で、ルネサンス・フルートの良さ、そして宇宙的な空間を肌で感じることができました。ぜひ、CDを通じて皆様にもこの特別な空間と時間を体感していただけたらと思います。

「ソフィオ・アルモニコ」の初CD「ルネサンス・フルート・コンソート 魅惑のルネサンス・フルート~優しい眼差し」

寺神戸亮さん・上村かおりさん等と共演したテレマンの「パリ四重奏曲集全曲」のCD(2枚組)

 そしてもう一つの録音は、2016年7月にリリースされたテレマンのパリ四重奏全曲録音です。

 初めてヴァイオリンの寺神戸亮さん、ガンバの上村かおりさんとアンサンブルをしたのは、私のライフワークにもなっている「フルートの肖像」シリーズ第6弾でのパリ四重奏全曲公演ことです。2011年に行われた公演は大成功といってもよく、次々に繰り出される生き生きとした音楽の会話に、お客様も演奏した私たちも大満足で、本当に心から楽しめるコンサートになりました。それ以降、寺神戸さんたちとはシリーズ第8弾でハンブルク四重奏曲や、福岡、福山でのパリ四重奏曲ツアーなどアンサンブルを重ね、この三人を核としたメモリアルバロックという新しいコンサートシリーズも昨年から始まりました。

 寺神戸さんや上村さんとは、エネルギッシュなところ、音楽を映像的に感覚でとらえるところ、ちょっとおっちょこちょいなところ、楽観的で人生を謳歌しているところなど、性格的にも非常に近いところがあり、3人で盛り上がった時の勢いはもう誰にも止められません。というわけで、コンサートで盛り上がった勢いそのままで、パリ四重奏の全曲録音を行うことになりました。

 パリ四重奏曲は、テレマンが1738年にパリを訪れた際に書き下ろした、フランスの芳醇な香りが漂うテレマン室内楽の最高傑作です。ロココの雅宴画の世界のような洒脱な愛と音楽の駆け引き、テレマン独自の軽妙でユーモアあふれる会話がいたるところで繰り広げられ、聴く人に飽きさせる隙を与えません。テレマンの真骨頂が味わえる録音をぜひお聴きください。

 どちらのCDもこちらのホームページのお問合せから注文することができ、送料無料でお送りいたします。7年ぶりの渾身の演奏をお楽しみいただけましたら幸いです。

 2016年7月にはCD発売記念として、パリ四重奏曲のツアーを、東京、長野、神戸で行いました。このコンサートの東京公演は公演の1ヶ月以上も前に完売となってしまいました。ライブでしか味わえない丁々発止の演奏をお楽しみいただけたと思います。

 2016年10月には福岡古楽音楽祭の一環として、パリ四重奏曲の公演のほか「テレマン in パリ ~大人気作曲家が旅先で見たもの~」という公演をしました。パリ四重奏曲はパリの公開演奏会シリーズコンセール・スピリチュエルで、当時最高の奏者だったブラヴェやフォルクレによって初演されました。そのコンセール・スピリチュエルで人気の高かった作曲家たちの曲を集めてみました。ほぼ同じ内容の公演を東京の上野学園の石橋メモリアルホールでの「古楽・21世紀シリーズ」の第2弾としても行いました。東京公演は寺神戸亮さんによるルクレールのコンチェルトなのに対し、福岡公演では私がブラヴェのコンチェルトを演奏いたしました。

 この上野学園の「メモリアルバロック・シリーズ」は寺神戸・上村さんを中心にくわえて、曽根麻矢子さんなど新しい人たちが加わっており、第3弾として本年11月にはマラン・マレを採り上げる予定です。

2016年に行ったソフィオ・アルモニコのツアー「東京公演」のチラシ

2016年に上野学園の古楽1世紀シリーズ II として行った「テレマン in パリ」のチラシ

「テレマン in  パリ」の福岡あいれふホールでの演奏。

左から上村、曽根、前田、小池、寺神戸。ブラヴェ:フルート協奏曲

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