前田りり子の初ソロCD
J.S.バッハと同時代の作曲家達によるフルート音楽
【レコード芸術準推薦】【朝日新聞クラシック試聴室掲載】
2500円
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発売元:ムジカ・リリカ ML-002 販売元:キング・インターナショナル
演奏 フラウト・トラヴェルソ 前田 りり子
ヴィオラ・ダ・ガンバ 市瀬 礼子
チェンバロ ロベール・コーネン Robert Kohnen
レコーディング・ディレクター リコー・イェンテマ Rico Yntema
レコーディング・アシスタント 濱瀬 祥
録音場所 Lienne de Bra (ベルギー) の教会
録音時期 2002年5月11日~12日
G.F. ヘンデル : フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 HWV359b op.1-1b
G.P.テレマン : 「12のファンタジア集」より第1番 イ長調、第2番 イ短調
J.S.バッハ : フルートとチェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV 1030
C.P.E.バッハ : フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 Wtq.124
J.G.ミューテル : フルートと通奏低音のためのソナタ ニ長調
Total time 59:31 Photo:©三浦與一
レコード芸術 新譜月評 <準推薦>
最近様々なステージに登場しているバロック・フルート奏者、前田りり子のCDで、「J. S.バッハと同時代の作曲家によるフルート音楽」のサブタイトルが示すように、ヘンデルのホ短調ソナタ、テレマンの《12の幻想曲》からの2曲、J. S.バッハのロ短調ソナタ、C. P. E.バッハのホ短調ソナタ、ミューテルのニ長調ソナタが収められている。
どの曲でも前田の演奏には安定感があり、その上で真摯に演奏している。音楽に対する謙虚な姿勢が解釈の根底にあるのに好感が持てる。それは新人としてまず望まれる第一歩であり、その段階を抜け出して一歩を進めてこそより大きな展望が開けてくるのではないだろうか。彼女はそれを期待させる資質を持っているように思われる。
作品としてはバッハの最後の弟子とも言えるミューテルのニ長調ソナタが興味深い。変化に富んだ感情の動きが音楽に奥行きをもたらしている。ヴィオラ・ダ・ガンバが効果的に使われているのも特徴で、フルートとの対話的な動きに魅力がある。J. S.バッハのロ短調ソナタではコーネンの演奏が控えめながら表情に富んでいる。ここでは前田の演奏もトラヴェルソ特有の音域による響きの変化を巧みに生かしている。<高橋 明>
日本の古楽オーケストラの欠くことのできないフルート奏者としての存在感を示しつつある前田りり子がバッハと同じ時代のフルート作品を集め、それぞれの作曲家の個性的なスタイルを演奏し分けている。有田正広やバルトルド・クイケンに薫陶を受けた前田が、チェンバロの名手ロベール・コーネンとロンドンを中心に活躍するヴィオラ・ダ・ガンバの市瀬礼子を通奏低音に従えて洗練された演奏を繰り広げている。前田のフルート(もちろんフラウト・トラヴェルソ)の音色の美しさ、洗練された吹奏、音程の確かさは2曲目に収録されたテレマンの《12のファンタジア》からの無伴奏の第1番イ長調、第2番イ短調の2曲の演奏から十分に窺える。この洗練された気品のあるフルートの音色で通奏低音つきのヘンデルのホ短調ソナタ(作品1-1b)がディスク冒頭を飾っている。教会ソナタ様式による4楽章ソナタでは緩急楽章のコントラストが見事に表現されている。緩徐楽章でのレガートの安定、急楽章でのリズミカルな律動での絶妙なタンギングによる美しくまろやかな、それでいて核のある音の喜悦あふれる表情などがすばらしい。また、このヘンデル作品と同じ調、同じ編成のエマヌエル・バッハの緩急メヌエットの前古典的な3楽章構成のソナタとの音楽表情の作りの違いも大きな聴きどころだ。冒頭のアダージョこそ教会ソナタの名残を感じさせるが、第2楽章のアレグロには古典派ソナタあるいはフルート協奏曲にでもふさわしいような躍動と力感が表現されている。バッハのオブリガート・チェンバロ付のロ短調ソナタBWV1030では、例えば第3楽章に聞けるような広い音域にわたる技巧的楽句の素晴らしいリズム感にあふれた演奏でバッハの音楽への共感を示す。そして終楽章ではコーネンのチェンバロと二重奏ソナタとしてのアンサンブルの充実した響きを聞かせる。短調ソナタの並んだこのディスクの最後に、バッハの最後の弟子といわれるミューテルのニ長調ソナタが置かれている。エマヌエルやテレマンの影響を強く受けたミューテルの作品にはすでに古典派ソナタへの接近が見られる。さまざまな新しい表現語法が織り込まれたミューテル作品を前田は楽しむように演奏し、多彩な表情を与えている。<平野 昭>
[録音評]作為感のない音づくりであると同時に、バロック・ソナタのバランス感覚がごく自然に感じられる。演奏がそうしたバランスや音色でも、それを録音で再現するのは言うほど簡単ではない。単に作為なく録音しただけでは、古典派以降のソナタと画然とした差のあるニュアンスにはならない。その点これはなかなか見事。2002年5月、ベルギー、ブラ・シュール・リエンヌの教会。<90点、相澤昭八郎>
(レコード芸術 2003年9月号143ページ より転載)
朝日新聞 クラシック試聴室 河野克典
耳に快い、というほかない。音の粒子が肌身に感じられるような演奏。優しく気遣いながら、心をなぐさめてくれるような響きで、通奏低音との掛け合いも息がぴったり。
(朝日新聞 2003年7月11日(夕刊)より転載)
新レーベル“アルケミスタ”から凄演ディスク第3弾 爽やかで透明度抜群の演奏
前田りり子(フラウト・トラヴェルソ)他による J.S.バッハと同時代の作曲家達によるフルート音楽
那須田 務
天に導かれたフルート吹き
アルケミスタ(錬金術師)という名のレーベルが誕生し、先日その第1弾『笛の楽園』を聴いて、演奏、録音ともども、濱田芳通とアントネッロの意図するところが100パーセント伝わってくるアルバムにいたく感動したばかり。そして、それに続いて登場したのが、今回ここにご紹介するディスクである。
前田りり子の名は、おそらくバッハ・コレギウム・ジャパンやオーケストラ・リベラ・クラシカのファンならば知らない人はいないだろう。バッハやハイドンの管弦楽曲などで、いつもふくよかな音色の、優美なトラヴェルソを聴かせている女性である。とはいえ、念のために、ここで少々プロフィールを。
前田りり子は、フルートの申し子のような人だ。いわば、天に導かれたフルート吹き。りり子の名は、母君が師事しておられた、往年の名フルート奏者林りり子の亡くなる直前にいただいたのだという。やがて、9歳からフルートを始め、高校2年生のときに全日本学生音楽コンクール西日本大会のフルート部門で1位となった。その後有田正広の演奏を聴いてトラヴェルソの魅力に開眼(ちなみに有田氏も林りり子門下)。桐朋学園大学の古楽器科に進んで有田氏に師事し、1993年からはデン・ハーグ王立音楽院に留学してハーゼルゼットとバルトルド・クイケンのもとでさらに研鑽を積んだ。その頃からだろうか。有田さんの、バルトルドの秘蔵子として、前田りり子の名が巷で囁かれるようになったのは。95年にル・パルルマン・ドゥ・ミュージックのメンバーとして来日し、栃木「蔵の街」音楽祭に出演するなど、期待の新人として注目を集めた。翌年には我が国唯一の山梨の古楽コンクールで優勝、さらに99年にはブルージュ国際古楽コンクール・ソロ部門の第2位の栄誉に輝いた。2000年にハーグ王立音楽院を卒業。帰国後は、前述のように、様々なアンサンブルに、ソロにと活躍している。
安定した技術と端正な音楽作り
ディスクとしては、すでにラ・フェート・ギャラントの『雅なる宴』「アントレ」があったが、ソリストとしてはこれがデビュー・アルバム。クイケン兄弟の名パートナー、ロベール・コーネンや「ラ・フェート」の市瀬礼子のガンバの共演を得て、昨年5月にベルギーの教会で録音されている。バッハを中心に据えて、その同時代者たちで構成されたプログラム。前田のトラヴェルソの音色は、師のクイケンに似て、透明度抜群で、温かく、ふくよか。安定した技術と端正な音楽作りも彼女の美質だろう。もっとも感銘を受けたのはバッハ。力みのない表現が快く、深い呼吸から生まれる、落ち着いた、しなやかで陰影に富んだフレージング、すばらしく音楽的なアーティキュレーション、そして練磨された解釈が、コーネンの風格あるチェンバロや大らかな歌に満ちた市瀬のガンバと相俟って、爽やかで、清新な魅力をもった演奏に仕上がっている。
(「レコード芸術」誌 2003年7月号201ページ「NEW DISC & ARTISTS」より転載)