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コラム(2014年8月)

■パリの楽器屋(2014年8月1日)

 3月のBCJのフランス・スペインツアーが終わって、続きを書かねば・・・と思っているうちに4ヶ月が経ってしまいました。この数か月は「協奏曲の夕べ」などもあり、本当に怒涛の日々でした。ちょっと日が経ってしまいましたが、ツアーの話の続きをちょこっとだけ。

 ビルバオ公演の後、私の出番がないカンタータプログラムが数日続いたため、数日間のオフ日となりました。バーゼルのフルートメーカー、タルディーノの工房に行くことを楽しみにしていたのですが、なんと予定していた格安航空が急なフライトキャンセルになり、ビルバオで一日足止めとなってしまいました。何の保証もない格安航空・・・。安いけれども、やっぱりリスクを伴いますね。すったもんだの末、結局バーゼル行きは断念。次公演がパリのため、みんなより一足早くパリに行って遊ぶことにしました。

 そして、そのパリで出会ったのが、この美しい象牙のフルート!昔コンセルバトワールがあったため、今でもサン・ラザール駅前のローマ通りには、沢山の楽器屋や楽譜屋が集まっています。そこをぶらぶらしている時にショーウィンドウから目に入ったのがこの多鍵式フルートです。私が愛用しているサックス作多鍵式は6鍵式で、ピッチがA=420~438hzぐらいです。BCJでメンデルスゾーン版のマタイ受難曲や、メンデルスゾーンのパウルスをした時など、オペラシティの大オルガンを使うためにA=442hzでしたいといわれることがあり、現代ピッチで演奏できる多鍵式フルートをちょうど探しているところでした。

 お店に入ると7,8本の多鍵式フルートが壁にかけられており、さっそく試し吹きをさせてもらいました。約半分の楽器は非常に良い状態で、残りは修復しないと吹けないようなボロボロの状態でした。店員さんは壊れた楽器を修復して販売するのが好きとのことで、私が吹いている間も、ずっと熱心に楽器を磨き続けていました。

 私が購入した楽器はスタンプがついていませんが、おそらくBuffet Crampon系列の楽器だろうということです。象牙の頭部管なのに、なんと全く割れのない完品!当時の象牙の頭部管はスライディングヘッドジョイントために、中に金属が入っているおり、現存するほとんど楽器には割れがあります。それが全くなく、すぐにでも吹ける状態でお値段なんと10万円ぽっきり!!!惚れ込んだというほど素晴らしい楽器ではありませんが、実用的には音程も問題なく、あとは愛情を注いであげれば私好みに育ってくれそうな予感。ということで、買いを即決してしまいました。

 ただ問題はクレジットカードが使えないお店だということ。その晩、そして翌日と金策に奔走して現金をかき集め、何とか無事手に入れることができました。

さてはて、お披露目はいつになるやら・・・・。

パリのお店はLa Cave Ventsというところで、ホームページもあります。

http://www.lacaveavents.com/index.php

古いクラリネットやサックス、オーボエもたくさん置いてありました。

左の丸い建物がコンサートホールMichael Fowler Centreです。

■パリの美術館(2014年8月1日)

 パリにはこれまでに覚えていないぐらい何度も行っているのですが、今回は一人の時間がたくさんあったので、すごく久しぶりに、ルーブル美術館、オルセー美術館、グスタフ・モロー美術館、クリュニー中世美術館などすごくベタな美術館巡りをしてみました。やはり年の功といいますか、昔はあまりよく分からなかったロマン派・近代の美術がすごくおもしろくて、ダイレクトに心に響いて涙ぐみそうにある絵にも出会え、本当に素晴らしい時間を過ごすことができました。特にグスタフ・モロー美術館はホテルから近かったこともあり、2回も行ってしまいました。一人の人物の絵を若いころから晩年にいたるまで、デッサンの習作から傑作までたくさん見ると、なぜ画家がその絵を描きたかったのかという心理がだんだん見えてきて、大変興味深かったです。

 学生時代、美術館巡りをしていたころは、誰の作か、時代は、スタイルは、作品の内容は、音楽との関連はなど頭で体系づけながら見ているところがあり、実際の絵画より横に貼ってあるネームプレートばかり眺めたりしてしまっていました。でも年を経て、絵を見ればネームプレートをいちいち見なくても、大体のことが分かるようになってくると、誰の絵であるか、有名な絵であるかなどということはもうどうでもよくなり、ただ、ただ純粋に絵と向き合い、絵が語りかけてくる言葉に耳を傾け、かき乱される感情の起伏を楽しむことができました。年を取るのも悪くないものですね。

Tenture a L'oiseau "Intermede musical"

クリュニュ中世美術館のタピストリー

M.Rosselli "Le Triomphe de David" ルーブル美術館

A.Vallayer - Coster "Instruments de musique ルーブル美術館

■民族舞踏「サルダーナ」(2014年8月1日)

 パリの後はリヨン、トゥールズを経て、スペインのヴィックという町に行きました。「地球の歩き方」にも載っていないような街で、行くまで全く何の情報もなかったのですが、行ってみるとローマ遺跡から、中世、ルネサンス、バロック、19、20世紀初頭の建物が小さな城壁内に混在する大変魅力的な町でした。

 どんな街だろうと到着早々、中心部の広場に行ってみると、生演奏をしている管楽器の楽隊がいて、その前でたくさんの人たちが輪になって踊っていました。その楽団の楽器を見てみるとどれも不思議な楽器ばかり。リーダー的な役割をしているのは片手フルートとタンブーランを演奏している男性。ルネサンスまでの片手フルートというと、指孔は3つが定番ですが、沢山のキーがつけられていました。片手であれを全部操作するとはすごいです。オーボエはチェルメラのようにピルエットがついており、リードは完全に口の中に入れて吹くあたり、とてもルネサンス的なのですが、沢山のキーがつけられ、管もラッパ部分は金属です。トロンボーンのように見える楽器には、3つのピストンがつけられていました。どれも、ルネサンス時代の楽器が19世紀以降の技術を取り入れて、独自の発展を遂げたような不思議な楽器たちでした。その前で踊る人たちも三々五々な感じで8~10人程度の小さな輪がいくつもできて、皆さんそれぞれのペースで踊っているようでした。

 その後観光案内所に行ってきくと、サルダーナというカタルーニャ特有の民族舞踏だそうで、毎週土曜日の午後に町が楽団を雇っており、誰でもが広場で踊りに参加できるのだそうです。カタルーニャ地方は今でも激しい独立運動が続くぐらい民族意識が強いところで、町のいたるところには独立を望むことを示す旗カタルーニャの旗が窓から垂れ下がっていました。みんなで毎週踊ることで、カタルーニャ人としての意識を高めているのかもしれませんね。

曲の初めやテンポ決めるのは一番手間の片手フルート吹き

半分金属のオーボエ。リードは口の中

広場で踊る人たち。バルコニーにかかっている旗は独立賛成の表明

カタルーニャ地方のタイル。ヴィックの教区美術館

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