top of page
デン・ハーグ王立音楽院卒業演奏会のころ(2000年5月)

■ツァー「バロックフルートリサイタル2000」

 2000年4月はじめに日本にやってきて、バッハ・コレギウム・ジャパンのマタイ受難曲公演(横浜4/19・東京4/21・神戸4/22・福岡4/23)に出演、その後ヨーロッパからチェンバロのロベール・コーネンさんをお迎えし、ガンバの平尾雅子さんに加わっていただき、「バロックフルート・リサイタル」を5カ所(宇部5/13・広島5/14・福岡5/16・唐津5/17・東京5/19)で行いました。

 どちらも古楽界の大先輩ですが、私の演奏を柔軟に、しかもがっちりとささえていただき、本当に気持よく演奏することができました。「3世代、つまりおじいさんとお母さんと娘のアンサンブルね」と平尾さんに言われましたが、言葉と世代を超えて、ひとつの心で新しいなにかを生み出すことのできる音楽は、やっぱりすばらしいと実感しました。コーネンさんからも「いつか、またやりたいね」というお手紙をもらいました。

 各会場には大勢の観客がおいでいただき、暖かい声援を送っていただきました。今回のリサイタル開催にあたり、2人の助演者、各会場をお世話された方々、ご来場の皆様方に、厚く御礼申し上げます。

 

■NHKFM放送の「名曲リサイタル」

 その後、NHKFM放送の「名曲リサイタル」の録音をいたしました。チェンバロの平井み帆さんとガンバの市瀬礼子さんと3人で、ルクレールのソナタなど演奏しました。司会者からいろんなことを聞かれ、調子に乗ってちょっとよけいなことをしゃべりすぎてしまったかなぁと、反省しています。

 

■ラ・フェート・ギャラントの旗揚げ

 5月28日のバロック室内楽「雅なる宴」は、ヴァイオリンの桐山建志さん、ガンバの市瀬さん、チェンバロの平井さんよりなるアンサンブル「ラ・フェート・ギャラント」のいわば旗揚げコンサートでした。といっても、このグループでは今まで何度も合わせてきているので、お互いにツーカーといった感じで、音楽が伝わるので、楽しい演奏会でした。東京オペラシティの近江楽堂で昼・夜2回公演し、大勢のお客さんにおいでいただきました。

 5月31日から6月2日まで3日間、埼玉県松伏町にあるエローラというホールで「ラ・フェート・ギャラント」のCD録音を行った後、3日にオランダへ戻りました。このCDのことについては、また後ほど詳しくご案内いたします。

 

■ハーグ王立音楽院の卒業演奏会

 オランダに戻って第一の仕事は、なにをおいてもまず6月7日のハーグ王立音楽院の卒業演奏会をクリアすることでした。この演奏会はリサイタルの形式で行われました。なにしろ日本から戻って、わずか4日後、時差ぼけもかまっておられぬ緊張の連続でした。

 演奏したのは、ルクレールとJ.S.バッハの通奏低音付きソナタ、C.P.E.バッハの無伴奏ソナタ、そして休憩を挟んで、楽器をバロックフルートから8鍵付きクラシックフルートに持ち替え、フォルテピアノを伴奏にフンメルのニ長調のソナタでした。クラシックフルートは日本にいた2ヶ月間、リサイタルやレコーディングに追われてほとんど吹く事ができなかったので、どうなることかとかなり不安でした。バロックとは指使いも全然違うため、試験の当日になってもまだ、忘れてしまった指使いを思い出すのに必死でした。

 でも、いざ試験になってしまうと、一緒に演奏したピアノの人の心強い支えもあり、大変楽しく吹く事ができました。試験中、自分で演奏しながら、「あれ、この曲ってこんなにいい曲だったっけ?」なんて突然思ったりもしたのですが、終わった後審査員の先生からも「フンメルが最高によかった、特に1楽章が始まったところの美しさは格別で、ああ、僕はこれを聴くためにここにいたんだなあって、なんか感動しちゃったよ」などとお褒めの言葉をいただき、こんなはずじゃなかったのにと、自分でもびっくりしてしまいました。こんな予定外ならいつでも大歓迎なのですが・・・

 試験全体に対する審査員の先生方の感想も、「説得力のある独自の世界を持った、大人の演奏だった」と、非常に肯定的で、「日本で、一人の音楽家として新たな世界を切り開いていきなさい。あなたならきっとできるよ」と激励していただきました。これで、長年の学生生活もとうとう「卒業」というわけです。

 

 その後、師匠のバルトルド・クイケン先生から以下のようなメールが福岡の自宅に届いたそうなので、ご披露します。

 昨日あったリリコの卒業リサイタルのとき、私がいかにハッピーであったかを、ぜひお伝えしたいと思います。彼女はもはや生徒ではなく、すばらしい音楽家です。その演奏も練習というより、まさに専門家のコンサートで、とてもビューティフルな演奏をしました。私は彼女が個性と独自性を確立できたことを非常に喜んでいます。また、これ以上ヨーロッパに留まらないで帰国を決心した点も喜んでいます。というのは、今や彼女は自分の翼で翔びたつべき時です。まだ彼女に学ぶことがあったとしても、それはコンサートのステージで学ぶべきです。それは彼女にとっても楽しい仕事となるでしょう!(バルトルド・クイケン)

bottom of page